第2章 芽生える
────848年────
俺が調査兵団に入団してから、四年が経っていた。
訳あって訓練兵団での訓練課程を経ることなく844年に入団した俺は、その翌年には兵士長に就任していた。
入団した翌年の845年に、ウォール・マリアの南端にある最重要防衛区域であるシガンシナ区が突如現れた超大型巨人と鎧の巨人によって陥落し、人類はウォール・マリアを放棄せざるを得なくなった。
これを機にキース・シャーディス調査兵団団長は辞任、歴代調査兵団団長で初めての “生きたままの交代” となった。
シャーディスのあとを継ぎ、第13代調査兵団団長に就任したのがエルヴィン・スミスだ。
エルヴィンは団長就任と同時に、俺を新職 “兵士長” なるものに就任させた。
……あれから三年。
それまで巨人の謎を解明するために壁外の探索活動が主な目的だった壁外調査は、ウォール・マリア放棄後にその様相を大きく変えた。
ウォール・マリアを奪還するために道すがら兵站拠点を作り大部隊が移動する順路を確保することが、壁外調査の使命となった。
兵站拠点作りと口でいえば簡単なものだが、実際には巨人のうろつく地に成り果てたマリア内領域での活動は、毎回多くの死傷者を出した。
……皮肉なものだな…。
地下街のゴロツキだった俺が、今や “人類最強の兵士” などと持ち上げられ、多くの部下に責任を持つ兵士長なんてものになるとはな。
俺は地下街の仲間と地上権を得るために、ニコラス・ロヴォフの依頼を引き受けた。
エルヴィンからロヴォフの不正に関する書類を奪い、なおかつエルヴィンを殺す目的で調査兵団に入団した。
だが巨人に仲間をむごたらしく殺された挙句にエルヴィンに刃を向けた俺は、すべてエルヴィンの手の上で転がされていたことを知った。
命を絶つべく振り下ろされた刃を真っ向から受け止めたエルヴィンに、すべての因は巨人であると諭された俺は… あいつに膝を屈した。
そして巨人との血塗られた戦いの日々の中で、いつしか俺にとってエルヴィンをはじめミケやハンジ…、その他多くの兵士たちが “信頼に足る仲間” となり共存するようになった。
俺の居場所はドブ臭い地下街から、人類の未来に心臓を捧げる調査兵団に変わった。