第22章 一緒にいる時間
明くる日の午後、ミケ分隊長の執務室。
マヤは先ほどからずっと、機会をうかがっている。
いつもならあと少しで休憩に入るはずだ。そうしたらリヴァイ兵長の執務を時間外に手伝いたい旨を申し出たい。今取り組んでいる仕事が、書類の日付と署名の記入漏れの単純なチェックであったため、マヤの頭の中は、そのことでいっぱいだった。
さらさらと走っていたミケのペン先が、つっと止まった。
………!
マヤの意識が研ぎ澄まされる。
……“そろそろ休憩しようか” と言うはず…!
さらさらさら…。
確かに止まったはずのペン先が、また流ちょうに紙を走り始めた。
……あれ?
おかしいわ。なかなか区切りのいいところまでいかないのかしら?
マヤは軽く眉を寄せると、手元の書類のチェックに集中しなくてはと、姿勢を正した。
ミケは先ほどからずっと、マヤの様子に気づいている。
いつもなら全身全霊で与えられた書類に向き合うマヤであるのに今日は、どこか心ここにあらずで落ち着かない。
たまたま今は、渡している書類の単純な記入漏れのチェックを指示しているので、マヤが少々通常より集中していなくても大丈夫ではあるし、この状況を観察して楽しんでいる身としてはその分あとで確認するつもりだ。
とにかく今は、マヤの様子を何食わぬ顔をしてうかがうのが面白くて仕方がない。
ミケが処理をしている書類は、溜まりに溜まった過去の立体機動装置の使用許可申請書へのサインであるため、正直に言って全く書類に集中せずとも事は進む。
……確か以前にもリヴァイが愚痴をこぼしていたが、この立体機動装置の使用許可申請書は本当に紙の無駄だな。
フンと鼻を鳴らしつつ、ペンを走らせる。
……しかしマヤは一体何をしようとしている?
やたら俺の動向に注意を払っているようだが。
少々意地悪な気持ちで、走らせていたペンを止めてみる。明らかにマヤの全身がびくっと緊張した。
だが再び署名を開始すると、落胆している。
……なんだ? 何か言いたいことでもあるのか?
時計を見れば、そろそろ休憩の時間だ。
……答えを知ろうじゃないか。
ミケはペンを止め、ぼそっとつぶやいた。
「そろそろ休憩しようか」