第22章 一緒にいる時間
ペトラは話をつづける。
「兵長ってさ、地下街から来たって話じゃん?」
「うん…。ゴロツキだったって聞いた」
リヴァイが地下街出身で有名なゴロツキだったことは、調査兵団に入団してしばらくすれば、先輩兵士から聞かされるよもやま話の一つである。
「地下街なんて行ったことないしわかんないけどさ、きっと普通の町で育ったうちらには想像もつかない色んなことがあったんじゃないかな。だからあんな風に言うんだよ、“女なんて抱きたいときに抱ければいい” って」
「……そうかもしれないね」
「だけどさ、私… 思うんだよね。兵長も環境とか人間関係とか… まわりが変われば変わるんじゃないかなって。うちのおじいちゃんが言ってたんだ。“魚心あれば水心” ってね」
「魚心あれば水心…」
「水の中で生きている魚に水のことを想う心があるならば、水もまた魚のことを想うものだっていう意味なんだって」
「……素敵な言葉だね」
「だからさ、きっと兵長のことを想う心が兵長を変える気がする」
「そうだね…」
「マヤ!」
突然、大きな声で呼びかけてくるペトラの顔を真顔で見つめる。ペトラの大きな瞳の奥に、確信に近い強い輝きが見えた。
「魚になって!」
「へ?」
「いや水でもいいけど。兵長が魚でマヤが水? マヤが魚で兵長が水? やっぱどっちでもいいや。想い合えば絶対心は通じるはずだから!」
ペトラの勢いに押されてうなずく。
「う、うん…」
「応援するからね!」
「ありがとう…」
“ありがとう” と答えるなんて、それこそおこがましい気もしたが、ペトラの強い光を放っている瞳と、揺るぎのない友情のこもった声にマヤは、すべてを信じて前へ進むことに決めた。