第22章 一緒にいる時間
「……な、生殺し…」
「ああ見えてモブリットさんだって男だもん。好きな女の部屋で夜を過ごして何もないなんてキツイと思うよ?」
「そうですよね…」
マヤの同意に満足したニファは前を向いて階段を下り始めた。すぐに一階に到着して幹部棟を出る。しばらく二人は黙って歩き、一般棟の入り口までやってきた。
「私はここで。これ、本当にありがとうね!」
階段のところでニファは、マヤからもらったパンと茶葉の包みをひょいと顔の高さまで上げて礼を言う。
「いえ、こちらの方こそナナバさんとハンジさんの部屋まで案内してもらってすみません」
「全然! じゃあまたね~!」
ひらひらと手を振って階段を上るニファに頭を下げる。完全に姿が見えなくなるまで見送ったあとは、廊下を自室のある一番奥まで進んだ。
ペトラの部屋の前を通り過ぎるときに、それとなく様子をうかがう。廊下側に窓がある訳ではないので、中の様子ははっきりとはわからないのではあるが、いつもいつも自分の部屋に行くには必ず通るので、なんとなくペトラが在室しているのかそうでないかは感覚的にわかるようになってしまっている。
……いるみたい。でもお風呂を先に入ってしまおうっと。
マヤは入浴を済ませてから寝る前に、ペトラにお土産を渡すことに決めた。
……兵長とのことも話したいし…。
今日の朝に食堂で、ペトラに兵長の執務をお手伝いしたいと話したばっかりなのに。
偶然にヘルネの丘で兵長に出逢って、進展するなんて想像もしていなかった。
……ペトラ、びっくりするだろうな…。
マヤはそう思いながら鍵穴に鍵をさし、自分の部屋へと帰っていった。