第22章 一緒にいる時間
「……そういう関係…」
ニファはほんの少し小難しい顔をしてマヤの言葉を復唱したが、すぐににっこりと笑って否定した。
「いや、全然そんなんじゃないよ」
「……そうなんですか…」
「そりゃまぁ夜に普通にプライベートな部屋にいたら、そう思うよね」
「ええ、まぁ…」
「あの二人ってさ…」
とんとんとリズミカルに階段を下りながらニファは笑った。
「同じ分隊で結構身近な私でもよくわからないところある。なんか不思議な関係だよね」
「モブリットさんはハンジさんのことを好きですよね?」
マヤは前を軽快に歩くたびに揺れている赤毛のおかっぱ頭を見ながら訊いた。
「そうだね、そう思うよ。多分、兵団の人全員がそう思ってるよね。じゃあハンジさんはどうかっていうと…。これが見えてこないのよね。ハンジさんってちょっと人とは色々違うしさ、モブリットさんのことを好きだとは思うけど、それが普通にうちらが考えるような好きではない気がするわ」
「そうですね…。ニファさんの言うこと、よくわかります。私から見てハンジさんとモブリットさんは一緒にいるのが自然で、つきあうとか恋人とかそういうのをすでに通り越していて…。家族みたいな? ううん、親友いや… 相棒? そんな空気で。だから夜に部屋に一緒にいるのがびっくりしたっていうか…。二人がそういうのって想像してなかったから…。でもニファさんは “そういう関係” でないって言うし、家族や相棒みたいな感じでのままで一緒に夜、部屋にいるんだろうな…」
最後の方はまるで独り言のようにマヤはつぶやいた。
「まぁハンジさんの方はそうだろうね。家族、相棒、仲間、同士…。男女隔てなく誰とでも接しているし、だからこそモブリットさんも信頼して夜に自室に入れているんだろうし。でもさ…」
ニファは歩みを止めて、後ろのマヤを振り返ってにやりと笑った。
「モブリットさんは生殺しで辛いだろうね」