第22章 一緒にいる時間
モブリットとニファは、マヤの心中の戸惑いのことなど全く気づかない様子で話を進めている。
「……寝てるよ」
「そうですか…。マヤがハンジさんに渡したいものがあったんですけど」
ニファの言う “マヤ” を聞いて初めて、モブリットはニファの一歩後ろにマヤがいることを知った。
「あぁ マヤ、いたのか。すまん、気づかなかった」
「いえ…」
マヤは小さく首を振る。
「……預かろうか? それともハンジさんが起きてるときに出直すかい?」
優しく訊いてくれるモブリットに、マヤはウサギパンと茶葉を差し出した。
「食べ物だし、預かってください」
「了解」
受け取ったモブリットは、その包みの重さから何気なく訊く。
「軽くてやわらかいな… パンか?」
「はい、ウサギパンです」
「ウサギパン?」
いかにも知らないといった様子のモブリットに、ニファがすかさず。
「モブリットさん、ウサギパンを知らないんですか?」
「うん」
「ヘルネの… あれ? マヤ、あのパン屋の名前、なんだっけ?」
「“アメリ”」
「あぁ! そそ、“アメリ” だ。そこの名物のパンじゃないですか!」
ウサギパンを知らないモブリットをほんの少し責めるような口調のニファにモブリットは苦笑いをした。
「“アメリ” は昔に一回か二回行ったきりだ。俺はもっぱら “バンディッツ” 派なんだ」
「へぇ…。私は “バンディッツ” はあんまり行かないかな。マヤは?」
「私も、もっぱら “アメリ” です。“バンディッツ” は甘いパンを全然置いてないんですもの」
マヤは食パンと噛み応えのあるロールパンしか置いていないシンプルな “バンディッツ” の店内を頭に浮かべながら答えた。