第22章 一緒にいる時間
ニファは三階の廊下をずんずん進み、中ほどあたりで立ち止まった。
「ここ」
マヤにそう言うなりニファは、扉をどんどんと叩いた。
「ナナバさーん!」
返事はない。
「あれ? いないかな?」
首を傾げながら、再度ニファは。
「ナナバさーん! 留守なんですかー!?」
「……はいはい、いるよ~!」
と声がしたかと思えば、
「……ったく誰? 大声で…」
ぶつくさ言いながら、ナナバが扉から顔を出した。薄手のTシャツが汗で肌にはりついている。
「ナナバさん、また筋トレしてたんですか?」
あきれた声を出すニファ。
「悪い? あ、マヤ!」
ニファの後ろにいるマヤに気づいたナナバ。
「今日、街に行ったので… これ、お土産です。それから前に言ってたうちの茶葉です」
ウサギパンと茶葉を両手で差し出した。
「あぁ、くれるって言ってた紅茶の! ありがとう。パンも…?」
と言いながらウサギパンの包みを開けると、耳が見えた。
「ウサギパンだ!」
ナナバの声がワントーン上がった。
「これ、好きなんだよね」
「ナナバさんも?」
マヤの顔がぱぁっと輝く。
「クリームの甘さがちょうどいいんだ。最近食べてなかったから嬉しい。ありがとう!」
礼を言いながらナナバは、ニファも自分が今もらったものと同じ組み合わせを手にしていることに気がついた。
「……ニファももらったんだ?」
「うん。マヤって律儀だから、前にお父さんの茶葉をうちらにくれるって約束したのちゃんと守ってくれて…、あっ!」
ニファは真ん丸な目をより一層丸くした。
「……ってことはマヤ、ハンジさんにもあげるのね?」
「ええ、そうです。だからすみません、ハンジさんの部屋も教えてください」
「OK! 任せなさい!」
どんと自分の胸をこぶしで叩くニファ。
「じゃあナナバさん、失礼します」
「ありがとう、マヤ。紅茶もすごく楽しみ!」
「マヤ、行くよ。ナナバさん、また明日で~す!」
「は~い! 明日ね」
ニファに背中を押されて、マヤはナナバの部屋の前から立ち去った。