第22章 一緒にいる時間
その夜、マヤの心は弾んでいた。
ただの… いつもどおりの… 調整日になるはずが。なんの変哲もない、よくある買い物に出ただけの… 一日になるはずが。
ほんの思いつきでのぼった丘で、思いがけず兵長と出逢えて、いつか一緒に樫の木の上からの景色を眺めようと約束できるなんて。
コンコン。
だからノックをしているだけでも、その顔は自然と笑みでいっぱいになっていたらしい。
「どうしたの? そんなに笑って」
ノックに応じて扉をひらいたニファは、いきなりそう訊いた。
「え? 私… 笑ってました?」
「うん。すごく嬉しそうに」
ニファは私服のワンピースを着ているマヤの様子から、街に出たんだなと当たりをつけた。
「ヘルネに行ったんでしょ? 何かいいものでも買えた?」
「はい、そうなんです。ニファさん、これ…」
マヤはパン屋のアメリの紙袋から、個別に包まれているウサギパンを一つ取り出した。
「ウサギパンです! それからうちの茶葉と…」
父のブレンドした紅茶の葉を小分けした包みを添える。
「うわぁ! ありがと!」
ニファの丸い大きな目が喜びで輝いた。
「あ、入ったら?」
ふと立ち話をしていることに気づき部屋に誘うが、マヤは首を振った。
「いえ、まだウサギパンと茶葉のセットを配らなくちゃいけないので。あの、ナナバさんの部屋ってどこか知ってます?」
ナナバとは親しく話はするのだが、居室にまでお邪魔したことはこれまでになかったのだ。
「あぁ、うん。行こう、案内するよ!」
ニファはそのまま部屋から出てきて、先を歩く。階段を上がる。ニファの部屋は二階だったが、どうやらナナバの部屋は三階らしい。