第21章 約束
「ねぇ、兵長…」
「なんだ」
マヤは後ろにそびえる樫の木を振り返った。
「木の上からだと、もっと景色はいいですか?」
「あぁ」
「……見たかったな…」
そう小さな声を漏らすマヤに、すかさずリヴァイは。
「登ればいいだろうが」
木から隣のリヴァイに顔を向けながら、残念そうに。
「立体機動装置がないと、簡単には登れません」
「手伝ってやるが…?」
「えっ!」
そんなことを言われるとは思ってもいなかったマヤは、声がひっくり返ってしまった。
「いえ、いいです!」
せっかく木登りを手助けしてやると申し出たのに、即座に拒否されてリヴァイは訳がわからないといった様子だ。
「……なぜ」
「今日はスカートですし…」
青空色のワンピースの裾をつまんだ。
……せっかく兵長が木に登るのを手伝うって言ってくれたのに…。
でもこれじゃ危なくて、ちゃんと登れない。
そう思いながら、お気に入りのワンピースの長いスカートの丈を恨めしく眺めた。
「なら今度ここに来るときは、ズボンをはいてくるんだな」
その声色がどこか優しく響いて、マヤは顔を上げた。
「そのときに一緒に登ってやるから」
リヴァイの目元は、どことなく優しい。
「………?」
……一緒?
マヤが一瞬意味がわからずにいると。
「またここに一緒に来ればいい」
「……はい」
……なんで?
マヤは理由を訊かずにはいられなかった。
「あの… なんでですか?」
「なんでもクソもねぇ。今日は登れないんだろ? だから次は登れる格好をして一緒に登ればいい」
……だからなんで一緒に?
一緒の理由付けがよくわからずに小首を傾げて考えているマヤの様子に、リヴァイはほんの少し不機嫌な面持ちになる。