第21章 約束
断ろうとすれば、マヤが声を震わせていた。
「……だけど、ひとりの部下として自分の自由時間に兵長のお手伝いを少しでもしたいと思っちゃいけませんか? そばにいてあなたの力になりたいと思っちゃ駄目でしょうか?」
………!
駄目じゃないさ。
俺だって同じことを思っている。
そばにいてお前の力になりたい。守ってやりたい。
すぐに俺は、同じ気持ちでいることを伝える。
だが、その先を口にすることはできなかった。
なぜなら俺とお前では、理由が違う。
お前は “ひとりの部下として” と言った。
……俺がお前のそばにいたい理由は、上司とか部下とかそういうんじゃねぇ。
マヤ、お前がマヤだからだ。それ以外には何もない。
だがこんな個人的な理由を、伝える訳にはいかない。
「俺は…」
のみこんでしまった言葉。“俺はお前だからそばにいたい”。
代わりに気持ちをごまかすかのように口から出た言葉は。
「……ミケが許可さえすれば、手伝ってもらおうか。ただし、お前の負担にならないことが条件だ」
「……はい!」
マヤの瞳が輝き、弾んだ声が俺を包む。
「ありがとうございます。頑張ります!」
……あぁ、この笑顔が見られただけでも。
リヴァイは一度は断ろうとしたマヤからの申し出を受け入れて良かったと心から思った。
「ねぇ、兵長…」
「なんだ」
「いい景色ですね」
「……どうした、急に」
「ふふ、わかりません」
マヤは笑った。
「でも兵長のお手伝いができると思うと、目の前の景色がさっきよりも綺麗な気がして」
「おい、早まるな。ミケが反対する可能性も十分ある」
「分隊長が正当な理由もなく反対してきたら、私にだって考えがあります」
「………?」
「もう二度と嗅がせてあげません!」
鼻息荒く言いきるマヤにリヴァイは、“それは今回のことに関係なく禁止しねぇとな” と密かに考えた。