第21章 約束
やわらかな緑が風にそよぐ丘の上に並んで座ってみると、マヤとの距離を意識してしまう。
手を伸ばせば、その華奢な肩を抱き寄せられるほどの…。
その距離を意識した途端に、ドクンドクンと打つ胸の音が丘にこだまするのではないかと恐れた。
緊張している、自分でも滑稽なほど。
隣に座るマヤはそんな俺の様子など気づきもしないで、がさごそと紙袋をさぐってクリームパンを取り出して “兵長もいかがですか?” とすすめてくる。
お前に胸の鼓動を気づかれやしないかと冷や冷やしているのに、パンなんか食ってる場合ではない。当然断れば、今度はクロワッサンをすすめてくる。
「お前の昼メシだろ。俺はいい」
胸の高鳴りと緊張に相反して己の声は冷めている。
マヤは赤い顔をして黙ってしまった。
……しまった。きつく言いすぎたか…。
せっかく誰もいない、この景色の良い丘で二人きりでいるのに。優しい言葉や気の利いた会話ひとつできない自分が恨めしい。
今からでも遅くない。何かひとことでもいい、声をかけて、一緒にいるこの時を特別なものにしたい。
きっとマヤにとっては、ピクニック気分で昼メシを食おうとやってきた丘に、たまたま上司がいただけのこと。特別でもなんでもない。もしかしたら一人で景色を満喫したかったのかもしれない。ならば俺は完全なる邪魔者だ。
……望んでもねぇのに、勝手に木から “落ちてきた” だけだしな。
なんとも複雑で、気の滅入るような負の思考で頭をいっぱいにしながら、なんとかマヤに声をかける言葉はないかと。
こんなとき、エルヴィンだったら即座に何か言えるだろうに。
……チッ、今はあいつは関係ねぇだろ。