第21章 約束
家族同然だった仲間の魂が癒されていくかのように、丘の上に立つ俺とマヤの間に優しい風が吹く。
その風は樫の葉をそよそよと揺らしていた。
このままずっと、二人で風の調べを聴きながら。
このままずっと、二人で一緒に街並みを眺めていられたら。
だがきっと、そのうちマヤは去ってしまうだろう。
……そういえば。
こいつはここに何をしに来たんだ?
やはり幹に刻まれた名前に、それを刻んだ男を想うために来たのだろうか?
……クッ…。
考えたくはない。
そしてマヤにここから去ってほしくもない。
なかば時間稼ぎのように丘に来た理由を訊けば、昼メシだと言う。
理由がマリウスではなくただの昼メシだったことに、自分でも驚くほどにほっとする。
メシを食うために木の下に座りたいのだろう。
マヤがきょろきょろと何かを… きっと石でも探している。
気を利かせて差し出した俺のハンカチは拒否されてしまった。マヤは自分のハンカチを敷いたかと思うと訊いてくる。
「あの…、兵長はどうされますか?」
……これは…。
これは俺もここにいていいということなのか?
敷いたハンカチを突き返されたときは、たとえ丁寧にたたんであろうが俺の心はズタズタだった。
拒否されたハンカチのように、自分自身も拒まれた気がして。
だが今、どうするかと訊かれた。
……どうするかだって?
お前とこの丘の、この樫の木の下で一緒にいたいに決まっている。
俺は迷わず突き返された白いハンカチをマヤの水玉模様のハンカチの隣に敷いた。
「座れよ」
……マヤよ、澄ました顔でお前に座れと言ったつもりの俺だが、内心はまた、先ほど敷いたハンカチのように拒まれやしないかと冷や冷やしていたことなどお前は知らないんだろうな。