第21章 約束
お財布事情を踏まえて、街でのランチを諦めたマヤ。
……そうと決まれば、帰ろうかな…。
街の中央にある広場から、兵舎へつづく道へ一歩踏み入れようとしたそのとき、唐突にある考えがひらめいた。
……そうだ! 丘にのぼって、買ったパンを食べよう!
ヘルネの街の外れには、小高い丘がある。丘へはきちんと整備された遊歩道のようなものはないが、そこへ通う人たちが踏みしめることによってできた山道が伸びていた。
マヤは故郷のクロルバ区にある丘と似ているその丘に、時折足を運んだ。
広場に面したカフェで葡萄水の瓶を一本買うと、丘へとつづく道を行く。
景色の良いところでとる昼食に心がはやり、心なしかいつもより早く頂上に到着してしまった。
丘には一本の大きな樫の木が、まるで丘の主のように立っている。そのまわりには緑の絨毯を敷き詰めたかのように綺麗に雑草が生い茂り、ところどころに黄色の小花も咲いていた。
……樫の木の下に座って、パンを食べよう。
そう思って樫の木に向かって一目散に歩く。樫の木が近づくにつれ、マヤはその幹に刻まれている文字を思い出す、刻んだ友のことも、刻んだ日のことも。
あれは…、マリウスが散ることになる壁外調査の一週間ほど前の日のこと。
調整日だったマヤは、幼馴染みでもあり同期で同じ班に所属しているマリウスと丘に来ていた。
「……へぇ…。ここがマヤが見つけたお気に入りの場所?」
樫の木を見上げたマリウスが訊いてくる。
「うん。クロルバの丘にも同じ木があるから、なんか親近感が湧いちゃって」
「お前、ガキのころからあの丘によくのぼってたもんな…」
「そうよ、誰かさんとその仲間のせいでね」
「……その話はよせよ…」
困った様子で返したマリウスだったが、マヤが悪戯っぽい笑顔でいるのを確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。