第21章 約束
……うわぁ、美味しそう!
今マヤは、ヘルネで一番人気のパン屋である “アメリ” にいる。右肩からは服屋で買ったブラウスやスカートが入った大きな紙袋をさげている。
ヘルネに入ってから予定どおりに真っ先に服屋に行き、お目当ての麻のブラウスと膝丈のフレアスカートを買った。Tシャツを買わなかった代わりに麻のブラウスをワンランク上のものにした。店員の説明では防シワ加工を施してあるとのこと。麻の涼しさは捨てがたいが、シワになりやすいのが欠点だ。しかし防シワ加工で、ほとんど気にならない程度まで抑えられるという。
良い買い物をしたと気分上々で、パン屋のアメリに来たのだ。
目の前に広がる、お菓子のようなキラキラしたパンたち。
ここアメリは、基本の食パンやバターロール以外にもサンドイッチや惣菜パン、甘いペストリーに木の実やクリームをたっぷり詰めたパンなどが所狭しとならんでいて、訪れた者を幸福な気持ちでいっぱいにしていた。
……やっぱりクリームパンと、クロワッサンかな?
“今月の新作” という札とともに見たこともない木の実がぎっしりと乗ったペストリーが山積みになっていたが、マヤはいつも、少し悩んではみるものの結局はお馴染みのパンを選んでしまう。
ここに来たら必ず買うクリームパンをトレイに取ると、ずしっと重みを感じた。生地の端っこギリギリまで濃厚なクリームが詰めこまれているのだ。
幸せな重みを感じながら、会計をしようとレジカウンターへ進みかけたときにそれは目に入ってきた。
“アメリ名物・ウサギパン”
それはウサギの顔の形をしたパンで、中にはとろりとしたクリームがたっぷりと入っている。マヤが買おうとしている普通のクリームパンと味は全く一緒であるのだが、その可愛らしい見かけで人気のパンだ。そして少し高い。
可愛いけれど中身は普通のクリームパンと変わらないため、マヤは自分用に買うのはいつも普通のクリームパンの方だ。
だが、ウサギパンと目が合った瞬間に大好きな友の顔が浮かんだ。