第21章 約束
ヘルネへの道は一本道。歩いて30分もかからない程度の距離。
マヤは道端に揺れる季節の緑を、咲く季節の花を楽しみながらゆっくり歩いた。
春先には白や淡い桃色に黄色の花で彩られていた道のほとりは、6月になって春から夏への移ろいにふさわしい涼やかな青や紫の花が咲いている。
アジュガ、ヤグルマギク、ツユクサ。
そのほか名前の知らない青い花も咲いているし、もうすぐキキョウも、その星型の花を咲かすだろう。
一番目につくツユクサは、早朝からその青い花を咲かせ、昼にはしぼんでしまう。日も高くなってきた今は、しぼみ始めたものも多い。
まだ頑張って咲いているツユクサの花は、青い二枚の花びらがまるで。
……羽を広げた小さな蝶々みたいだわ。
道端の景色を心ゆくまで愛でながら歩いていくと、もうヘルネの街が見えてきた。
マヤの意識は青の花々から、店で待ち受けているであろう夏服や雑貨に移っていった。
……どのお店から行こうかしら。やっぱり服屋さんかな?
今日の一番の買い物の目的は、夏に向けて何枚か着るものが欲しかったからだ。さっぱりとしたデザインの麻のブラウスは絶対に買う。着心地の良い綿のTシャツなんかも買えたら嬉しい。よく履く膝丈のスカートも訓練兵時代のものだから新調したい。
下着も買おうかな…?
靴は今日は、買わなくてもいいかな?
服屋さんの次はパン屋さんにも行きたいな!
あ、そうだ。アルテミスに割れ角も買わなくちゃ。
買いたいものをあれこれと、頭の中で思い描けばウキウキと心が弾む。
マヤはいつしか足取りも軽く、笑顔でヘルネの街の入り口に到着した。