第8章 紅茶屋の娘
しばらく二人は紅茶を楽しんでいたが、ミケが訊く。
「マヤ… 何故こんなに美味く、淹れられるんだ?」
「あっ それは私の家が紅茶屋でして…、あはっ」
と答えながら、マヤは笑い出してしまった。
その様子にミケは目を丸くする。
「なんだ、一体どうした?」
「あはは… すみません! だってね私… 紅茶屋なんですって説明するの今日三回目だから」
マヤは説明しながらも笑いが止まらないらしく、腹を抱えている。
それを見ていたらミケもなんだかおかしくなってきて、目を細めた。
「お前の家は紅茶屋なのか」
「そうなんですよ」
マヤはまだ笑っている。
「三回も説明したとは…?」
笑いすぎて涙が出てきた目尻を指で拭いながら、マヤは給湯室での出来事を伝えた。
聞き終えたミケの第一声は…。
「リヴァイが手を握った?」
「いやだから、ちゃんと聞いてました? 私が兵長に手首を掴まれたところを、通りかかったハンジさんが手を握ったと勘違いして…」
「マヤ、あながちハンジの勘違いでもないと俺は思う」
「えぇぇ… 分隊長までそんなこと言いますかぁ…」
「あぁ。真意はリヴァイに訊かないとわからないが…、あいつが女にさわるなんてありえないからな」
「さわるって… 怒って掴んだだけですよ?」
「どんなシチュエーションであってもだ、自分から女の肌をさわるなんて考えられない」
「………」
マヤは黙りこんでしまった。
……女の肌って…。
分隊長は大袈裟なんだから。手首を掴まれただけなのに…。
「分隊長。兵長って何を考えているんでしょうか…」
先ほどとは違った声の揺れに、ミケは思わずマヤの顔を見る。
「今朝食堂で、兵長が私の席のところに来たんですけど…、なんで来たのかよくわからないんですよね」
「何か言われたりしなかったのか?」
「はい。ただ前に座って… こっちを見てました」
その様子を想像すると無性におかしくなってきて、ミケは顔がにやけてしまった。
「いつも不機嫌そうだし、怒ってるみたいで怖いし… 何を考えてるか全然わからないし…」
気づくとマヤが、泣きそうな顔をしている。
「私、兵長って苦手です…」