第21章 約束
「そもそも私ってさ、本を読むのも嫌い、手紙を書くのも苦手なんだから執務なんか初めから向いてないってわかりきったことだったんだよね! うっかりしてたわ」
そう言って、ぺろっと舌を出すペトラ。その様子がなんとも可愛らしくて、マヤは声を出して笑った。
「あはっ、うっかりしちゃったのね」
「そう! うっかり。だからマヤは、なーんにも気にせず兵長の執務を手伝ってあげてね」
「うん、わかった。でも手伝うって決まった訳じゃないけどね。断られるかもしれないし…」
「大丈夫だって! あのとき執務が片づいて兵長は喜んでいたから、執務の手伝いは歓迎されると思うよ? それに… マヤの申し出を断らないんじゃないかな」
「なんで?」
「うーん、なんとなく?」
「何よ、それ」
「ほら、お姫様抱っこした仲だし?」
急に飛び出た “お姫様抱っこ” にマヤは顔を真っ赤にした。
「あれは… そういうのじゃなくって!」
「あはは、わかってるって! からかい甲斐があるわ、マヤって」
「もう…!」
「あはは。……じゃあ私、まずはお風呂に入って、それから部屋の掃除を頑張るから! もう行くわ、またね!」
と言うが早いか立ち上がると、トレイを持って脱兎のごとく行ってしまった。
その様子を見送ったマヤは、急いで朝食を平らげた。
……調整日だもん、私も時間を有意義に使わなくっちゃ!
ごちそうさまでしたと手を合わせ、カウンターに食器を乗せたトレイを返却したあとに食堂を出た。
麻ひもで編んだ小ぶりのショルダーバッグには財布も入っている。
マヤはそのまま最寄りの街ヘルネに行くべく、正門に向かった。