第21章 約束
マヤはあまり、人に強く意見を言ったり質問することは好きではない。
誰しもそれぞれに事情があるだろうし、気持ちも異なって当然だし、そもそも自分の考えや想いですら言葉にして相手に伝えることは難しい。
だから相手が口ごもったときに、その後ろにはきっと様々な想いが広がっている気がして何も言えなくなってしまう。
今のペトラの奥歯に物が挟まったような言い方をされたならば、何も言いたくないのかもしれないと、こちらも言葉をのみこんでしまう。
しかし今回に限っては… ペトラと兵長との関係においては、うやむやになどしたくはなかった。そんなことをしたら、きっと後悔する。
「……あ、もしかしてリヴァイ班でもないのに手伝うとか、出しゃばり過ぎだよね? ……ごめん」
マヤはペトラが執務の手伝いを渋っているのではなく、マヤが手伝うということに何か引っかかっているのではないかと考えてみた。するとリヴァイ班でもないのに手伝うなんて、無謀な試みに急に思えてきたのだ。
「違う違う違う! 全然違う!」
謝ってきたマヤに慌てたのはペトラだ。
「やだ! 顔、上げてよ」
言われるがままマヤが顔を上げれば、苦笑いをしているペトラの顔。
「マヤがリヴァイ班じゃないのに兵長の執務を手伝ったらやだとか、そんなこと全然ない。むしろ逆、手伝ってほしい。それで兵長が楽になるなら」
ペトラはそこで一旦言葉を切ると、マヤの顔をじっと見た。
「……さっき私はパスするって言ったのは、私が執務が大嫌いだからなの!」
「え?」
全く想像もしていなかった “執務が大嫌い” なる理由にマヤはしばらく二の句を継げなかった。