第21章 約束
「ううん、違うの」
マヤは昨夜目にした状況を思い浮かべながら、説明を始めた。
「昨日、月夜亭から帰ってきたときにね、兵長の窓の明かりがついていたの。エルドさんが、兵長が夜も休日も執務室にこもってるって教えてくれた」
うんうんとペトラは大きくうなずきながら相槌を打つ。
「それでね、兵長には助けてもらってるし…。何かお役に立てないかと思って考えたんだけどね、執務を手伝って少しでも身体を休めてもらおうかなって」
「なるほど。いいんじゃない?」
ペトラの賛同を受けて、マヤの顔は輝いた。
「ほんと? ペトラもそう思う?」
「うん。確かに兵長っていつ見ても仕事してるしね… っていうか逆に遊んでるとこを見たことがないわ。いくら強くても休息しないと心配だよね」
「そうなのよ!」
マヤは嬉しそうに胸の前で手を組むと、ほっとひと息をついた。
「良かったぁ…。ペトラも一緒だと心強いし。あとは兵長と分隊長に許可を…」
許可をもらわなくちゃと言うはずだったマヤの声は、ペトラのひとことにかき消された。
「あっ、私はパス」
「えっ? さっき、いいんじゃないって言ってくれたよね?」
まさかのペトラの “私はパス発言“ にマヤは驚いてしまった。
「あぁ、あれは “マヤが執務を手伝うこと” がいいんじゃないって言ったの。私はやめとくわ」
「なんで? 前に執務の補佐を兵長から頼まれたとき、喜んでたのに…」
「……まぁ、そうなんだけどね」
なんとなくペトラの歯切れが悪い。
……あのとき… “初の執務補佐だから頑張る!” と嬉しそうだったのに、どうして?
「あのとき、何か嫌なことでもあったの?」
マヤは納得がいかず、めずらしく追及した。