第21章 約束
ペトラも兵長を想っている。
ペトラの想い、私の想い。それぞれ違うけれど、想っている。
リヴァイ班のペトラを差し置いてリヴァイ班でもなんでもない私が、お手伝いを申し出るなんて。そんな抜け駆けみたいなことはできない。
……ペトラも一緒に、と言ってみよう。
そう決めると、すっと心が楽になった。と、同時にまぶたが重くなってくる。
……ふふ、単純ね… 私も。安心したらもう眠れそう。まだ、ペトラにも兵長にもOKしてもらった訳でもない… のに…。
そのまま深い眠りの沼に肉体もろとも沈みこんでいった。
次の日の朝。
「……ん…」
なんの時間的制約もなく心おきなく眠りを貪り、自然と目覚める。
調整日における最高の起床。
今日は誰とも約束をしていない。
好きなときに起きて、好きなときに出かける。ただ、それだけ。誰にも気兼ねはいらない。
のびのびとした気持ちでベッドから起き上がれば、もうとっくに室内の光は早朝のやわらかさを失っていた。
時計の針は8時を少し過ぎたところを指している。
いつもなら午前の訓練の開始時間である8時半を目前にして、ばたばたと走り回っているころだ。
それが今はゆったりと、青空色のワンピースに着替えたりして。普段なら訓練の邪魔になる長い髪は一つに束ねているが、今日は。
……どれにしようかな?
大した数を持っている訳ではないが、それでも女の子らしく幾つかのお気に入りの髪留めの入っている引き出しを開けて… ほんの少し迷う。
「……これに決めた」
そうつぶやいてから華奢な指先がつまみ出した髪留めは、白い花をモチーフにした清楚なデザインのバレッタ。
さらさらと落ちてくるサイドの髪をバレッタで留めると、よしっと鏡の中の自分ににっこりと笑いかけて部屋を出た。