第21章 約束
ペトラがオルオの肩をぽかぽかと叩きながら怒鳴る。
「オルオ! マヤの顔を立てて仕方なくおんぶされてやってるんだからね!」
「……わかってるよ」
「やだ! ずり落ちてきたじゃない!」
「うっせーな! お前が暴れるからだろうが! しっかり掴まってグアッ… ガリッ! 」
「ちょっと! 今、舌噛まないでよ!」
案の定、舌を噛んだオルオに対して辛辣なペトラ。
「ははは」「こいつら、いっつもこれだな」「ふふ」
それを見守るエルドとグンタとマヤ。
五人は月明かりの下を和やかに歩いて帰った。
そろそろ兵舎に着く。門が見えてきて、幹部棟が一歩近づくごとに大きくなる。
正門まで来た。なんとはなしに幹部棟を皆で見上げる。22時をとうに過ぎている今は、当然のように最上階の三階に明かりが集中している。三階には幹部の各居室があるからだ。
「……あ…」
マヤが何かに気づいて小さく声を漏らした。
その視線の先の明かりがどこであるか、エルドにはすぐにわかった。
「……兵長、まだ仕事してるんだな」
二階にただ一つだけ明かりが灯っている部屋は、リヴァイ兵長の執務室。
「……ですね」
「街から帰ってきたらいつも、あの窓は明かりがついてる気がする」
「……そうですか…」
「あぁ。調整日も結局は、執務室にこもっていることが多いみたいだしな。兵士といっても上の立場になると、書類仕事がしゃれにならないくらい多いもんな」
「………」
マヤはエルドから聞かされたリヴァイ兵長の執務の話に黙りこんでしまう。
「おい、早く来いよ! 風呂が混むだろ」
すでに先を行っていたグンタが二人を振り返りながら叫んだ。
「お前、風呂のことしか頭にないのか」
笑いながらグンタに駆け寄るエルドの背中を見ながら、マヤもゆっくりと敷地を歩いていく。二階の窓の明かりを見つめながら。
それも視界から消え、一般棟までやってきた。