第21章 約束
それを見たマヤが素早く手伝い、ペトラは無事にオルオの背中におさまった。
「よし、じゃあ行くか」
エルドが代表して会計を済ませた。
「ありがとうございました~♪」
店員の歌声を背に店を出たあとは、割り勘分の代金をおのおのエルドに差し出した。
そのままふらりふらりと歩き出す。
街の中央にある広場までやってきた。
調査兵団御用達の居酒屋 “月夜亭” のある兵団の最寄りの街ヘルネは、中央に大きな広場がある。広場から四方八方に放射状に道が伸びている。たとえるならば、上から見たら船の操舵輪や太陽のマークみたいな構造になっているのだ。
マヤがふっと立ち止まった。
「どうした?」
隣を歩いていたエルドが訊く。
「……ミケ分隊長がいなかったなって思って…」
「ん? ミケさん?」
「はい。分隊長は団長と飲みに行かれる約束をしてたんです。月夜亭にはいなかったから、きっと違うお店に行かれたんですね」
ヘルネには月夜亭の他にも数軒の店がある。
「そうだな。別の店じゃないかな」
二人の会話を聞きつけたグンタが後ろから声をかけてきた。
「前に兵長の行きつけの店ってのに連れてってもらった時、ミケさんがいたぜ?」
そのグンタの発言を耳にしたオルオが、さらに後ろから叫ぶ。
「兵長の行きつけの店? 行った行った! なんだっけな、なんかすごい名前だった」
「そうそう、あれ…? 名前、なんだっけな?」
店の名前を忘れたグンタとオルオを振り返りながら、エルドがひとこと。
「“荒馬と女”」
「「あぁぁ! そうだった!」」
名前を聞かされて大声を出している二人のそばで、マヤはひとりでつぶやいていた。
「“荒馬と女”…。兵長の行きつけのお店…」
「すごい名前だろ? 俺も最初、びっくりしたわ!」
オルオが上機嫌で叫んでいると、背中でもぞもぞと動く気配がした。
「……う、うーん…。へい… ちょう? の行きつけの店?」