第21章 約束
「そうそう、それ! お姫様抱っこ。緊急事態とはいえあの兵長がお姫様抱っこをするなんてな。驚いたよ」
「俺も驚いた。というか次の日の朝な! 朝も抱いてたのにはみんな驚いたんじゃねぇか?」
エルドとグンタの “驚いた” の連発にマヤは恥ずかしくて顔が上げられない。
「オルオ、お姫様抱っこをしてやったらどうだ?」
グンタのその言葉につられて両腕をペトラの方へ突き出したオルオだったが、動きが止まった。
ペトラの声が頭の中でよみがえったのだ。
……はぁ? 気持ちの悪いこと言わないでよ! 誰がオルオなんか!
マヤの見舞いで医務室に行ったときだった。
壁外調査で巨人に襲われて意識を失ってしまったマヤを助けた兵長は、一度ならず二度までも横抱き… いわゆるお姫様抱っこをしたのだ。そのことをペトラから初めて聞かされて赤面しているマヤ。兵長にお姫様抱っこをしてもらったマヤをうらやましがるペトラ。
つい…、心の声が出てしまったんだ。
……お前がどうしてもって言うなら、やってやらんこともないけど?
その途端に…。
またペトラの声が頭の中で反響した。
……はぁ? 気持ちの悪いこと言わないでよ! 誰がオルオなんか!
ずきん。胸が痛い。
いつものペトラの暴言じゃねぇか。
わかっていても、やっぱり傷つく。
オルオは動けずにいた。
「オルオ…?」
両腕を突き出したまま固まってしまっているオルオに、マヤが不思議そうな声を出した。
エルドとグンタも訝しげに。
「どうした、早くしろ」「そうそう、俺早く帰って風呂に行きてぇから」
「……やっぱり、おんぶにします」
ペトラはお姫様抱っこに憧れていた。兵長にやってもらいたいと願っていた。
ペトラの意思を確認できない状況で自分がやったら、きっと嫌がる。
……こいつの嫌がることは、したくないからな…。
オルオはそう思いながら、ペトラの寝顔を見つめる。
「……今の体勢からゆっくり背負えば危険はないか」
エルドがそう言ったので、それを許可とみなしてオルオはさっと背負う体勢になった。