第8章 紅茶屋の娘
「……何かあったんですか?」
モブリットが訊いてくる。
「リヴァイがさ、マヤの手をこうギューッと握って…」
「ハンジさん!」
マヤは恥ずかしくて、思わず叫んだ。
「恥ずかしがらなくていいよ、マヤ!」
モブリットはその温厚そうな目を真ん丸にした。
「兵長が手を握った?」
「モブリットさん、違うんです! 手を握ったんじゃなくって掴まれただけなんです!」
そう言いながら、まだ赤みが残っている白い手首の内側を見せた。
それを見たモブリットはうなずいた。
「うん、確かに握るというよりは掴まれたって感じだな、これは」
「でしょう!? ハンジさんの早とちりなんですよ」
「いや、私の目は節穴じゃない。リヴァイはマヤの手を握りたかったんだよ!」
「分隊長、マヤが困ってるじゃないですか。もうその辺で…」
モブリットはまだ何かぶつぶつ言っているハンジの背中を押しながら、
「マヤ、分隊長の言うことは気にするな」
と、給湯室を出ていった。
給湯室に再び一人になったマヤは、やかんを火にかけた。
棚からティーポットやカップを取り出しながら、ため息をつく。
まだ赤い手首の跡を見つめていると、兵長に掴まれていたときに伝わってきた彼の体温の感覚がよみがえってきて胸がトクンと鳴る。
ハンジの声が頭の中で繰り返される。
……リヴァイはマヤの手を握りたかったんだよ!
そんな訳ないじゃないですか… ハンジさん。
マヤはそう思ったが突然、朝の食堂でじっと自分を見つめていた兵長の顔が浮かんできた。
あのときの兵長のマヤだけをまっすぐ見ていた強い視線、今の兵長に強く掴まれた手首の感覚…。
それらがマヤの鼓動を速くする。顔に血が上って熱くなる。
……一体 なんなの?
シュンシュンシュンシュン!
ハッと気づくと、お湯は沸いていた。
慌ててポットとカップに熱湯を注ぐ。
両手で愛おしむようにポットに手を添え十分に温まったかどうか確かめると、今しがた注いだお湯を流しに捨てる。
そしてポットにリヴァイ兵長のものではない共用の茶葉を入れ、再びお湯がグラグラと沸くまで待つ。
シュンシュンシュンシュン!
勢いよく沸騰した熱湯をポットに手早く注いだ。