第8章 紅茶屋の娘
「へぇぇぇっ、勝手に紅茶をさわってたのに便乗してマヤの手を握ったって訳か!」
「てめぇ… 削がれてぇのか!」
「だってそうだろ。前に私がリヴァイの紅茶を飲もうと缶にさわったら、何も言わずに蹴り飛ばしてきたじゃないか。なんでマヤだったら蹴らないんだい!?」
「………」
ハンジのもっともな言い分に、リヴァイは黙ってしまった。
リヴァイとハンジのやり取りに、マヤはおろおろしている。
「女を蹴る趣味はねぇし、お前は女だと思ってないからだ」
そう冷たく言い放ったリヴァイは、ハンジを睨みつけた。
「ほぉぉぉっ」
全くリヴァイの睨みが効かないハンジは、人を小馬鹿にしたような声を出す。
「確かニファも間違えて、リヴァイの紅茶缶を手に取っちゃったんだよねぇ! 覚えてるかい?」
「いや…」
「マヤ! ニファはどうなったと思う?」
まさか自分に話が振られるとは思っていなかったマヤは、咄嗟に答えられなかった。
「えっ! あ… さぁ?」
「殺されるかと思うくらいに睨まれて、縮み上がったニファは慌てて紅茶を棚に戻して終わりさ!」
マヤは少し考えてから、ハンジに言う。
「あのハンジさん… それは私も一緒ですよ? 一緒だけど私の場合、この紅茶について詳しかったから兵長は質問してこられたんです」
「紅茶に詳しい?」
「はい… 私の家は紅茶屋でして…」
「そうなんだ! でもさぁ、紅茶屋さんに質問するのに手を握る必要があるのかい?」
“リヴァイがマヤの手を握る” とハンジが連呼するので、マヤは耳まで真っ赤になってしまった。
「おい、いい加減にしねぇと…」
キレたリヴァイが何か言いかけたそのとき、モブリットの大きな声が響いた。
「あっ いたいた! リヴァイ兵長、エルヴィン団長がお呼びですよ」
一同が廊下の方を振り返ると、何も知らないモブリットがニコニコと笑って立っていた。
「……チッ…」
舌打ちして去る後ろ姿に、マヤは慌ててすみませんでしたと頭を下げたが、リヴァイは無反応だった。
「あぁあ~! 面白かったのに! 行っちゃったよ」