第8章 紅茶屋の娘
「すみません! めずらしい茶葉だからつい…」
リヴァイは、ほんのわずかに眉を上げた。
「ほぅ… 知っているのか?」
「はい。デブナム・リドリーのゴールデンチップス、限定物です」
手にしている薄緑色の缶を大切そうに持ち直しながら。
「かなり貴重で出まわる数も少ないから、普通は目にする機会もないはずですが…」
「………」
「紅茶商の方が、お知り合いにいるんですか?」
好きな紅茶のことなのでマヤは声を弾ませたが、ふとリヴァイが眉間に皺を寄せて押し黙っていることに気づいた。
……あっ…。
どうしよう! 勝手に兵長の紅茶をさわった上に、べらべらと話しかけたりして…。
マヤは、かーっと顔に血が上るのを感じながら謝った。
「ごめんなさい!」
紅茶の缶を棚に戻そうとしたが、手首をリヴァイに掴まれた。
………!
驚いてリヴァイの顔を見上げると、訝しげに目を細めている。
「何故… そんなに詳しい」
「あ… あの…」
掴まれた手首が痛い。
実際には音などしていないのに、マヤの耳にはバキバキと自分の骨が砕ける音が聞こえる感覚がする。
「私の家… 紅茶屋なんです…」
「あ?」
「父が紅茶をブレンドして売ってるんです。母がお菓子を焼いて一緒に並べて… お茶を飲むちょっとした席もあって…」
「そうか…」
「はい。小さなお店ですけど…」
リヴァイは納得のいった顔をしたが、依然掴んだ手首はそのままだ。
……痛い…。
放してくださいとマヤが言おうとしたとき、大きな声が響いた。
「リヴァイー! マヤの手なんか握っちゃって何やってんだい!?」
即座にマヤの手首を解放したリヴァイは、いつの間にか給湯室に来ていたハンジを睨みつけた。
「なんの用だ、クソメガネ」
「あはは、なんの用だって用なんかないよ。通りかかったら、リヴァイがマヤの手を握って…」
「握ってねぇ!」
リヴァイはハンジの言葉を遮る。
マヤは二人のやり取りを遠くに聞きながら、掴まれていた手首が真っ赤になっているのをぼんやりと見ていたが、ハッと気づいた。
……あっ そうだ! 謝らなくっちゃ!
「ハンジさん! 私が兵長の紅茶を勝手にさわってしまって…。すみません!」