第21章 約束
「過去にはなく、未来に存在し、今は存在せず、決して見ることも掴むこともできない。だが生きとし生けるものが皆、存在すると信じているものは何?」
一読したあとにミケはフンと鼻を鳴らした。
「……訳がわからん」
問題を聞いたマヤは、ぶつぶつと小声で “過去にはなく…” と繰り返した。
「うーん、なんでしょうね…? 存在してないのに存在して、見ることができないのに… みんなが信じてる?」
小首を傾げて考えているマヤ。
「……だろ? こういった象徴的な問題は一筋縄ではいかないな」
ミケが言えば、
「そうですねぇ…。うーん、でも待って分隊長、何かわかったような…」
「なんだ?」
「……風? 存在してるようで見えないし掴めないし。でもみんな風に頬を撫でられたり、風が揺らした木でその存在を信じたり…?」
「いやそれは違うんじゃないか? 存在するとかしないとかの部分は結構いい線いってるが、過去とか今とかの部分に当てはまらんだろう」
「あ… そっか…。そこのところ、すっかり抜けてました…。初めから考え直しですね」
しゅんとしているマヤを見ながらミケは、いつも自分が出した問題を一生懸命に解こうとする姿が愛らしいなと思った。先ほどまで訳のわからない今日の問題に苛立って眉間に皺を寄せていたが、マヤの愛らしい様子を見られたので、気分は羽のように軽い。
「……おい」
ふいに低い声がしてミケがその方面に目をやれば、先ほどの自分の眉間の皺なんかよりはるかに深い皺を刻んでいる、リヴァイの不機嫌そうな表情が待ち構えていた。
「お前ら、さっきから何を二人でごちゃごちゃと…」