第20章 想う
しゃりしゃりしゃりしゃり。
「……ほんとに美味しいわ、このりんご!」
あっという間に、頬張っていた五切れ目のりんごを咀嚼して狙うは六切れ目。
だが、さすがにペトラも気がついた。
「……あれ? 私ばっか食べてない?」
マヤはりんごの皮をむいて八等分のくし形に切って出していたが、皿には二切れを残すのみになっている。
「マヤ、いくつ食べた?」
「一切れ」
「えっ、ごめん! 美味しくて止まらなかった」
六切れ目にフルーツピックを突き刺すのをやめて、顔の前で手を合わせて謝るペトラ。
「ううん、いいの。私が食べるの遅いだけだし。それに私は昨日食べてるから… あっ、それはペトラも一緒か」
「ん? 昨日?」
「ほら、昨日の昼食に出たでしょ?」
「……何が?」
「え、だから… りんご」
「……出てないけど?」
「え?」
全く話が噛み合わず、顔を見合わす二人。
「マヤ…。昨日のお昼にりんごがついてたんだ?」
「うん…」
「誰と一緒に食べたの? その人のにもついてたの?」
「昨日は… 食堂に行ったのが遅くて誰もいなかったから一人だったの」
「そっか…」
……そう、あのとき食堂には誰もいなかった。
だから豆と人参の炒め物の皿にりんごが乗っていたのを見て、特別な日でもないのに、それもお昼なのにどうして?と思いはしたが、そういう日もあるだろうと深く考えなかった。
ただ全員にうさぎの飾り切りをするとは思えなかったので、うさぎの飾り切りだけは巨人に襲われた私を気の毒に思ったジムさんが特別にしてくれたものかと。
……お昼に出たりんご自体も、特別だったんだ…。