第20章 想う
「一つ! あの無愛想でうちら兵士のことなんかクソどうでもよさそうなジムさんがお見舞いをくれた。二つ! ジムさんのことをよ~く知ってるマーゴさんのお墨付き! この二大要素を満たしてるんだから、好きなのに決まってんの!」
「はぁ…」
「なによ、その情けない返事は」
ペトラはマヤに向かって突き出していたフルーツピックを引っこめると、ぶすっと四切れ目のりんごに突き刺した。
「だって…。ペトラも今、ジムさんのことを “無愛想でうちら兵士のことなんかどうでもよさそう” って言ったけど、本当にそのとおりで、ジムさんは私のことなんかどうでもよさそうだし、いつも怒ってるみたいな感じなんだよ?」
「それはさ…!」
しゃりしゃりとリズミカルな音を響かせながら。
「好きだからって、愛想が良くなるとは限らないんじゃない? それに “素” が怒ってるモードなんだから、相手が好きな女でも怒ってるんじゃない?」
「……なにそれ」
「ほらマヤはさ、マリウスに年中好き好き言われてたから、それが男の好きのスタンダードだと思いこんでるのよ」
「……そうなの?」
りんごを噛み砕くペトラに断言され、マリウスの名前まで出てきて、もうマヤには何がなんだかわからない状況だ。
「そうなの! だからマヤは無愛想で怒ってる男でも自分のことを好きってこともあるって理解しとかなきゃ」
「………」
眉根を寄せて小難しい顔をしているマヤに、ペトラは追い討ちをかけてきた。
「わかった?」
「……わかった」
勢いに押されて思わずうなずいたマヤを見るなり満足そうにして、ペトラは五切れ目のりんごに手を伸ばした。