第20章 想う
マヤが律儀に砂時計の砂をじっと見つめている。その様子があまりにも真剣でペトラはいつも、その間は話しかけられずにいた。
砂が落ちきった。
その瞬間にマヤの顔は嬉しそうに輝く。そして手際よくティーポットから紅茶を注ぐ。
紅茶のことはよくわからないし、別に詳しくなりたいとも思わない。でもペトラは、かけがえのない友が紅茶を淹れるところは好きだった。
最後の一滴が注がれた。
いつもマヤは二人で飲んでいても、なぜかきっちり三杯の紅茶を淹れる。そして必ず最後の一滴が注がれたカップをペトラに渡す。
……今日もだ。
にこやかに紅茶を差し出すマヤから、カップを受け取りながらペトラは思った。
……なんでだろう?
今まで気にしていなかったのに、急に気になってくる。余計に一杯淹れているのも、これまでは “お代わりの手間が省けていいや” としか思ってなかったのに。
「ねぇ、なんで毎回、三杯淹れるの? それからいつも最後に淹れたの私にくれるけど、なんか意味あるの?」
「あぁ…」
淹れた紅茶の湯気を早速吸いこんでいたマヤは、ペトラの質問に微笑んだ。
「たっぷりのお湯で淹れたらね、茶葉がひらいて美味しいのよ。なので一杯多く淹れてるの。それから最後の一滴にね、一番紅茶の香りと旨味がつまってるんだ」
「へぇ…」
「だからペトラに飲んでもらいたくって」
「そうなんだ。最後の一滴の意味はわからなかったけど、三杯淹れるのは、てっきりお代わり用かと思ってた!」
白い歯をこぼして笑うと、ほんの少し照れた様子を見せながらつぶやいた。
「いつも美味しい紅茶をありがとうね…」
「うん。私の方こそ、ペトラに美味しいって飲んでもらえるのが嬉しいよ。ありがとう」
二人は微笑み合うと、机の上に置かれたりんごの皿に目をやった。
「……食べようか?」「うん」