第20章 想う
「……いるかな?」
マヤは今、ペトラの部屋の前に立っている。
夕食のあとに入浴を済ませ、ニファに借りていた本を返しに行った。寝るには早いし、体調もすこぶる良い。
……ペトラに会いたい。
会って、お風呂に入っているときに打ち明けると決めた “想い” を…。
コンコン。
ノックをすればすぐさま “はーい!” と元気な声が聞こえ、扉がひらいた。
「マヤ!」
「急にごめんね。これ、一緒に食べない?」
手にしていた大きなりんごを、くいっと持ち上げた。
「うわ、立派! いいよ、入って」
ペトラは目を輝かせてマヤを部屋に入れようとしたが、すぐに真逆の行動を取った。
「あ、やっぱ駄目」
「え?」
「ほら見て、こないだの買い物の荷物がまだこんな感じ」
苦笑いしながらペトラが指さしたのは、ベッドの上。
そのベッドはペトラと同室だったが戦死した、アンネのもの。
ペトラがマヤの部屋に遊びに来たら、マヤと同室だったが亡くなってしまったクレアのベッドに腰かけるように、マヤもペトラの部屋では、ペトラのベッドの向かいにあるアンネのベッドに座るのだ。
そのアンネのベッドが今はひどい有様だ。
ひとめでは数えきれない紙袋が無秩序に置かれている。紙袋から出して放置されている衣服や小物類。雨の日に履くのだろうか、黄色の長靴がやけに目を引く。どうやらまだ全く手をつけていない紙袋も見受けられる。そして以前はなかった大きなうさぎの顔のクッション。
……壁外調査の前の日は長い間いなかったみたいだけど、こんなに買ってたのね。
意気揚々と街を歩くペトラの後ろを、この大量の荷物を持たされてよろよろと従うオルオの情けない姿が目に浮かぶ。
……オルオ、お疲れ…。
マヤは心の中でペトラに犬のように忠実なオルオをねぎらうと、にっこりと笑った。
「事情はわかったわ。じゃあ、私の部屋でね!」