第20章 想う
……紅茶は美味ぇし、マヤは…。
視線を向けた先で、幸せそうに微笑んでいる。
うまく言葉にできないが、何かが心の中で形作っていく。きっと無理にでも言葉にすれば… その気持ちは。
そのときマヤが顔を上げた。
「兵長。一緒に紅茶を飲めて… 嬉しいです」
……あぁ そうだ。言葉にするならば、俺も。
まったく同じ気持ちでいてくれたなんて。
ひとことでいい。俺もお前と紅茶を飲めて嬉しいと今、思っていたところだと… そう言えたなら。
だがそんなことを言えるはずもなく、ただドクンドクンと胸が苦しい。
何か言わなければ、きっとまたマヤは昨日の執務室のように逃げてしまう気がした。
だから… なんとかつぶやく。
「……そうか」
「……はい」
俺の言葉足らずのひとことに、頬を染める。その顔が綺麗で。
ドクン。
また心臓が跳ねた。
「リヴァイ」
完全に存在を忘れていたミケの声で冷静になる。
「……明日も来い」
……あ? お前に指図される覚えはねぇ。
と反発もあったが、今日ここに来たきっかけを作ったのはミケだ。
「………」
黙っている俺をちらりと見てからミケはマヤにも。
「マヤ、明日からはリヴァイのカップに淹れたらどうだ?」
急に話を振られたマヤは戸惑っている。
「え? ……でも…」
大きな琥珀色の瞳がこちらをうかがう、揺れながら。
俺は抗えない。
「……好きにすればいい」
その俺の言葉にマヤの顔は、咲き誇る花のように輝いた。
「……はい!」
ミケは満足そうに目を細めたあと、新聞を読み始めた。
マヤは残りの紅茶をゆっくりと飲んだ。
リヴァイはそんなマヤを飽きることなく見ていた。
午後の執務室では、穏やかに時間が過ぎていった。