第20章 想う
「あ、はい。それで一般的にブレンドしたものがダージリンとして売られているのですが、ブレンドではなく摘んだ茶葉そのままのものをダージリンシーズンティーと言うんです。シーズンティーは手を一切加えてないから、純粋に茶畑や季節、そしてその年の天候によって味が左右されます」
マヤがそこで息をつくと、ミケがすかさず感想を述べた。
「……だからさっきリヴァイが言ったようにブレンドして平均化するんだな」
「そうなりますね…。で、シーズンティーは摘んだ時期によって三種類あります。三月から五月の初めに摘まれる春摘みのものは “ファーストフラッシュ” と呼ばれています。まだ若い葉のみずみずしさが、春らしいフレッシュな風味と香りをもたらします。それに対して今日淹れた “セカンドフラッシュは” …」
マヤはテーブルの上の紅茶を愛おしそうに見つめながら。
「5月半ばから7月に摘まれた夏摘みのもの。まぶしい日差しの下ですくすくと育った茶葉は、まるで熟した果実のような濃厚な風味と芳醇な香りでもっともダージリンらしい良質な紅茶になります」
「……熟した果実。確かにな…」
ミケはそうささやくように言うと、あらためてマグカップの紅茶の香りを嗅ぐ。
「どことなく葡萄酒みたいな…」
鼻をうごめかせるミケに笑顔を向ける。
「そう、そうなんです! それはマスカテルフレーバーといって、マスカットみたいな香りがするんです」
「俺の好きな酒とお前の好きな紅茶に妙な共通点があるもんだな」
ミケも笑い返す。
「ふふ、ほんとですね!」
マヤとミケが笑みを交わしていると、リヴァイの眉間の皺が深くなった。そのことにいち早く気づいたミケは、話を元に戻した。
「さっきそのシーズンティーには三種類あると言っていたが…?」