第20章 想う
実家が紅茶屋の自分以外にこんなにも、紅茶に詳しく、愛好している人がいることに興奮する。嬉しくて、たまらない。
顔いっぱいに笑みが弾けてしまうのが、自分でもわかった。
「マヤ、座れ」
ソファの真ん中に腰を下ろしているリヴァイが、自身の左横に目をやる。
「……はい」
言われたとおりに、ソファの左端に浅く腰かけた。
「……悪くねぇな」
さらに口に含んで香りを堪能しながらリヴァイが独り言のようにささやく。
マヤもひとくちふたくち飲んでから、同調した。
「……ほんと… さすが女王…」
「だな…」
馥郁とした湯気越しに穏やかに微笑む合う二人の間を、ミケの声が割って入る。
「……二人で盛り上がってるとこ悪いんだが、女王とかセカンドなんとかとは…? 俺にもわかるように説明してくれないか」
リヴァイの低い声に酔いしれながら紅茶に溺れそうな感覚におちいっていたマヤは、その声にはっとして顔を上げた。
執務机の向こうでは、まるでこちらを見守るかのような温かなまなざしのミケがいた。
紅茶好きの兵長と自分にしか通じないような話をして気を悪くされたのかな? と心配になったが、どうやらそうではないことに安心する。
「すみません、分隊長。えっとですね、今日の茶葉はダージリンなんですけど…」
「……ダージリンってのは聞いたことがあるな」
「はい、とても美味しくて香りの良い代表的な茶葉ですので…」
マヤは両手に抱えていたマグカップを、そっとテーブルに置いた。
「どの茶葉もそうなんですが、収穫される茶畑や季節によって味が変わってくるんです。香りや風味を調整するために100%ダージリンの茶葉でブレンドされたピュアダージリンティーが、一般的にダージリンとして出回っているものです」
ミケが疑問を率直に口にする。
「ダージリンは紅茶の代表的な茶葉なんだろう? そのままで美味いだろうに何故ブレンドする必要があるんだ?」