第20章 想う
深みのある紅茶の香気を連れて、執務室に舞い戻った。
ミケは先ほどと変わらぬ姿勢で例のごとく新聞に目を落としていたが、やはりどことなく落ち着かない様子だ。
マヤは紅茶の道具一式を乗せたトレイから、ソファの前のテーブルにティーポット、ティーストレーナー、砂時計やカップを置いた。
砂時計の落ちる砂を見つめながら、何気ない風を装い訊いてみる。
「……どうかしましたか、分隊長? 時間を気にされているようですが」
「………」
答えないミケの様子に、マヤはしまったと悔いた。
正直なところ、訊くかどうか少し迷ったのだが。分隊長の落ち着かない感じがどうにも気にかかって。何かプライベートなことに関係しているのであれば、むやみに立ち入るのもどうかと…。
「……すみません」
謝るのと同時に砂が落ちきり、紅茶を淹れる。
ぼそっとミケがつぶやいた。
「いや、来ないなと思ってな…」
注ぎ終わった紅茶を手にミケの机へ。
「どうぞ」
そっとマグカップを置いたマヤは訊かずにはいられなかった。
「あの… 来ないって誰がですか?」
「………」
ミケがどう答えるべきか考えあぐねていると。
正面の扉が出し抜けにひらいて、そこに答えが立っていた。
振り向いたマヤが驚いて、目を見開いている。
「……よく来たな、リヴァイ」
歓迎するミケをじろりと一瞥すると、空いているソファのど真ん中にドカッと座った。
それを見たマヤは慌てた。
「すみません、来られるとは知らなかったので…。お茶を淹れてきますので…」
そう早口に言ってトレイにティーポットやストレーナーを乗せようとしたマヤを、リヴァイのひとことが押しとどめた。
「いや、いい」