第20章 想う
「……そろそろ休憩しようか」
「はい」
マヤは紅茶を淹れるために立ち上がる。
昼食のあと、午後の対人格闘訓練をなんの問題もなく終えた。筋挫傷を負った胸部を訓練の始めこそ庇いもしたが、すぐに思いきり励むことができた。
心身ともに完全復帰したマヤは、その後ミケと一緒に執務室へ来て今まで書類の整理にいそしんでいたのだ。
給湯室に行くために執務室を出ようとしたとき、ミケの様子がどこか、いつもと違ったように感じられた。
………?
違和感を抱きながら給湯室へ。
やかんに火をかけ食器棚からミケと自分のマグカップに、一杯多めに淹れるための客人用のカップを取り出す。
そうやって手を動かしながらも、違和感について考えていた。
……分隊長、なんだか時間を気にしていたみたいだけど…。
まるで何か約束でもあるかのように壁の時計にちらちらと目をやっていた。その上いつもどんと構えている分隊長なのに、どことなくそわそわしていたような…?
……どうしたんだろう?
右頬に右手をあて、小首を傾げていると。
シュンシュンシュンシュン!
お湯が沸き始めた。
たっぷりと空気を含んだ汲みたての水を充分に沸騰させることが、美味しい紅茶を淹れるための第一歩だ。
しっかりと沸騰しているのを湯気の具合から目で、シュンシュンとやかんの鳴く音から耳で確かめてから、ティーポットとカップに熱湯を注いだ。
そうやってティーポットとカップを温めてから、今度は紅茶を淹れるためのお湯を再び沸かす。
その間にティーポットのお湯を捨て、茶葉を入れる。
「……どれにしようかな?」
その日の気分や体調に合わせて茶葉を選ぶのは楽しい。
マヤはミケの様子を気にしていたことも忘れ、うきうきとした気分で食器棚にならんでいる紅茶の缶を眺めた。
「今日は…、これにしようっと!」
弾む気分につられて、ついつい声が出てしまう。
マヤはもっとも香り高く贅沢な逸品と名高い茶葉に手を伸ばした。