第19章 復帰
「……マヤ、マヤってば!」
「……あっ すみません、なんですか?」
ナナバの潤んだ視線の意味を考えていたマヤは、ニファのたび重なる呼びかけにようやく気づいた。
「読み終わった? 恋嘘」
「……コイウソ?」
きょとんとするマヤにニファは信じられないといった声を出した。
「やだ! “恋と嘘の成れの果て” じゃない。略して恋嘘、知らなかったの?」
「はい…」
「マヤってなんかそういうとこあるよね…。まぁいいや、で! 読み終わった? ほらもう、あとちょっとだったじゃん」
「読みましたよ。ニファさんの言ってたとおりで…。すごくつづきが気になってます!」
マヤが続編を読みたがっていることに満足したニファは、へらっと笑った。
「だよね~!」
「あ、返さないと。夜に持っていってもいいですか?」
「うん。あ、そうだ… ハンジさん、読みます?」
ニファに訊かれたハンジは…。
「それってこないだマヤを見舞ったときに話題にしてた本だよね?」
「そうです」
「巨人は出てくる?」
なんでもかんでも巨人と結びつけたがる上司に対して、ニファはやれやれといった様子で答えた。
「……出てくる訳ないでしょ。恋愛ものですよ?」
「じゃあ、パス!」
両腕で大きくバツ印を作ったハンジの次に、ニファが声をかけたのはナナバだ。
「……ナナバさんは? 貸しますよ?」
「うーん、私もいいや。本を読んでる暇があったら筋トレしたいし…」
「……了解です」
マヤ以外に誰も自分の愛読書を読んでくれない悲しさに包まれるニファだったが、ふとひらめいた。
……優しいモブリットさんなら! 女心もわかってくれそうだし…!
そしてその真ん丸な眼を、モブリットに向ける。
「モブリットさん…!」
だが一瞬で玉砕した。
「すまん、ニファ。俺は遠慮しとくよ」
「……そうですか…」
がっくりと肩を落としたニファにハンジが訊く。
「なんでそんなに貸したがるんだい?」