第19章 復帰
「……無理強いする気はないから、俺はお前を待たない。一緒に走りたかったら走ってる俺を見つけてついてこい」
「はい! よろしくお願いします、タゾロさん!」
ギータが頭を下げたとき、いつの間にか来ていたミケの声が響いた。
「皆、揃ってるな」
「「「分隊長、おはようございます!」」」
「おはよう。装置をつけ終わった者から上がれ」
そう命じて、自ら率先して樹の枝に飛び移った。
「「「はっ!」」」
カチッ! とトリガーを引く音。カンッ! とアンカーが突き刺さる音。そして、パシュゥゥゥっとガスを噴出する音が次々と森に反響して、第一分隊第一班、通称 “ミケ班” の立体機動訓練が始まった。
「……これにて午前の訓練は終了。午後は対人格闘だ、遅れないように」
ミケ班の面々は今、森の中における立体機動の飛行訓練、および巨人の模型の広場にておこなわれた討伐訓練を終えて、森の入り口に立っている。
「「「了解しました」」」
「では、解散!」
ミケの号令が終わると、途端に新兵三人組がじゃんけんを始めた。
「「「最初はグー! じゃんけんぽん!」」」
ギータ、ジョニー、ダニエルの三人はいつも、こうやってじゃんけんで自分たちの立体機動装置を倉庫に片づけに行く当番を決めているのだ。
「「「あいこでしょ! あいこでしょ!」」」
……ふふ。
あいこばかりでなかなか決まらないじゃんけん模様をマヤは微笑ましく思いながら、自身の立体機動装置を片づけに倉庫に向かって歩き始めた。
「……マヤ」
背後からミケの声が追いかけてきた。
「どうだ? 大丈夫か? 見たところ快調に飛んでいたが」
「はい、なんの問題もありませんでした」
にっこりと笑ったマヤにつられてミケも笑顔になる。
「そうか、では完全復帰だな。良かった」
「ありがとうございます」
倉庫を目指す二人にタゾロが追いついた。
「マヤ、病み上がりにしては相変わらず、すごい速さだったな!」
「タゾロさん、やっぱり私… 飛ぶのが訓練の中で一番好きだなって再認識しました」
「はは、そうか。それはいい」
「はい!」
笑い合うミケ、タゾロ、マヤの背後では新兵三人のじゃんけんの決着がつかず延々とつづいていた。
「「「あいこでしょ! あいこでしょ!」」」