第19章 復帰
リヴァイに説得を試みながら、ミケの心の内では。
……俺と二人で紅茶を飲む時間をマヤが楽しんでくれたらいいのだがな。
もちろんマヤは、たった二人の休憩時間をつまらなそうにしている訳ではない。喜んで美味い紅茶を淹れてくれるし、話もはずむ。
だが俺は知っているんだ。
その笑顔には、どこか淋しげな風情が秘められていることを。
いつも一人分を多く淹れているマヤの胸の内を想像すると。
……リヴァイ、お前がいないと駄目なんだ。
「だから紅茶を飲みに来い、リヴァイ」
「……考えておく」
そう答えて出ていこうとするリヴァイを、もうミケは引き留めなかった。
閉まった扉を見つめながら、
「来るようになったらいいんだがな…」
とつぶやくと、読みかけの新聞に目を落とした。
自分の執務室に戻ったリヴァイは、椅子に腰をかけると天井を見上げた。
急に顔色を変えて出ていったマヤのあとを追ったはいいが、すでに帰ってしまっていた。
ミケは突き返した書類を眺めてにやついているし胸糞悪ぃ、無駄足だったと帰ろうとすれば引き留められる。
……紅茶を飲みに来いだと…?
そんなことを指示される覚えはねぇと思ったが、ミケの真摯な声がどことなく淋しそうで。
……それに。
これはいい機会かもしれない。
ふとした俺のくだらない理由から、遠のいたマヤとの紅茶の時間。
今更、どの面下げて行くんだって状況であったし、もう二度と香る湯気越しにマヤの顔を見ることはないと思っていたのだから都合がいい。
ミケの言う “マヤが笑顔で美味い紅茶を淹れるにはお前が必要” が、正直なんのことだかよくわからないが。紅茶は茶葉を躍らせるためにたっぷりの湯で淹れた方が美味ぇからな…、俺がいたら美味い紅茶を淹れる条件も揃うということ… か。
全く見当違いな考えにふけりながらリヴァイは、また隣の執務室に紅茶を飲みに顔を出そうと心に決めた。