第19章 復帰
マヤの鼓膜を直撃したのは、用件をうながす冷めた声色。
それは自身の想いを再認識して恥じらっていたマヤを玉砕するのには、充分すぎるほどの威力だった。
……兵長、迷惑そうにしてる…。
それはそうよね…。
忙しいだろうに、用件も言わずにもじもじと赤くなって目の前に立たれても鬱陶しいだけよね…。
さっき体調を訊いてくれたときの “そうか” の声には特別な優しさがこめられている気がしたけれど、私の勘違いだった。
絡み合った視線は外され、声はどこまでも冷ややかで。居心地が悪そうに兵長はもぞもぞと脚を組んだ。
それなのにいつも、自分に都合の良いように勝手に解釈してしまう。
これもリヴァイ兵長に恋をしているからなのかしら?
たとえばこれが、エルヴィン団長だったならば。
体調をたずねられ、良かったなと優しく声をかけてもらえても、そこに何か特別な優しさがあるとは考えない。
そして用件を早く言えとうながされたところで恐縮はしても、心がずきんと傷つきはしない。
兵長のひとこと、兵長の視線、兵長の一挙一動に嬉しくなったり悲しくなったり。あれこれと想像して振りまわされてしまう。
こんなことなら書類を手渡したら、すぐに退出すれば良かった。
……でも…!
お礼を言いたい。部下としても、ひとりの人間としても。
それは私の兵長への思慕とはまた、別のところにあるものだから。
マヤは心を決め、その気持ちを眉のあたりにきりりと漂わせながら声を出した。少し、震えている。
「……兵長! あの、遅くなりましたが助けていただいて… また付き添っていただいて、 ありがとうございました。また皆と戦えるよう頑張ります。それだけなんです、申し訳ありません。お忙しいところを失礼しました!」
必死で伝えればもう、兵長の顔を見ることすらできない。
頭を深く一度下げたのち、逃げるように退室した。