第19章 復帰
右手と右足が同時に出そうになり、慌てて修正する。
かくかくと歩きつづけて、ようやくたどりついた執務机の前。リヴァイ兵長はマヤが入室したときと同じ姿勢でじっとこちらを見ている。小さな白い顔を少し右に傾げて、右手で頬杖をしているのだ。
「……書類をお持ちしました」
頭を下げて、両手で書類を差し出した。ぶるぶると手先が震えるのが自分でもわかって、マヤはぎゅっと目をつぶった。
手に持った書類がすっとなくなる感覚。恐る恐る目を開けると、リヴァイは黙って受け取った書類に目を通している。
「……今ご覧になっているのはミケ分隊長からです。最後の一枚はエルヴィン団長からです」
聞こえているのかいないのか、マヤの説明になんの反応も示さず書類を読んでいるリヴァイの眉間の皺がみるみるうちに深くなってきた。
……やっぱりあの書類は渡さない方が良かったかな…。
マヤが内心でひやひやしていると、厳しい表情をしていたリヴァイの顔がわずかに緩んだ気がする。見ればエルヴィン団長から託された最後の書類に目を通していた。
さっとすべてを読み終え机の隅に、きっちりと角を揃えて書類を置きマヤに向けた視線は、少なくとも不機嫌ではなさそうだ。
……団長の書類のおかげで助かった…!
マヤがほっとしていると。
「……体調の方は、もういいのか?」
……あっ! 真っ先に自分から言わないと駄目だったのに…。書類が大丈夫かどうかなんて気にしている場合じゃなかった…。
「はい! ご報告が遅くなってすみません。もうすっかり元気です」
「そうか」
リヴァイの表情は何ひとつ変わらず声のトーンも一定のままだったが、それでもマヤはそこに、何か優しい感情のかけらのようなものが散りばめられている気がした。