第19章 復帰
団長室を出て廊下を進む。一歩、二歩、三歩。あと数歩で着いてしまう、リヴァイ兵長の執務室の前へ。
先ほどまで静かだった心臓が、うるさく存在を主張している。
トクン… トクン…。
緊張で心臓が口から飛び出してしまいそうだ。このまま兵長の執務室は素通りして、ミケ分隊長の執務室に帰りたい。
……でも、きちんとお礼を言わないと。そのためには会わないと。
ぐっと眉のあたりに力が自然と入った。
コンコンとノックをする。いつもならノックをし終えると同時に扉をひらいて “失礼します” と入室する。それがここ調査兵団での普通の入室のスタイルであり、一部の例外を除き誰もがそうしている。
そんな当たり前の動作が今、こんなにもぎこちなく自然にふるまえないでいるとは。
マヤはノックをしたあとに立ちすくんでしまっていた。
待っていたところでリヴァイ兵長が “入れ” などの指示を出すはずがないのだ。
ノックをしてから時間が経ってしまい不自然なことこの上ないが、マヤは意を決して扉をひらいた。そして目をつぶりながら叫んだ。
「失礼します!」
緊張で声が裏返ってしまっている。
恐る恐る目を開けると、きっとノックの音がしたのに音沙汰のない扉を怪訝に思っていたに違いないリヴァイの青灰色の瞳が、射抜くようにこちらを見ていた。
その瞳に囚われて、トクントクンと鳴っていた心臓のスピードはありえないほどに速まっていく。
いつまでも扉の前に立っている訳にはいかない。
執務机の前まで進まなければ。
先ほどの団長室ではツカツカといとも簡単に歩けたほんの数歩の距離が、今は途轍もなく遠く感じる。