第19章 復帰
軽快にノックをしたのち、失礼しますと団長室の扉を開けた。
執務机で何やら万年筆を走らせていたエルヴィンが顔を上げる。
「……マヤか」
ツカツカと執務机の前まで進み、書類を差し出す。
「書類をお持ちしました」
「ありがとう」
さっと書類に目を通し、脇に置くとエルヴィンは穏やかに笑いかけた。
「アウグスト先生から報告を受けたよ、もうすっかり良いそうだね」
「はい! その節はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。復帰しましたので、また訓練に励みます」
直立不動でかしこまって答えるマヤの左手には書類が。
「はは、期待しているよ。ところで…、それは?」
エルヴィンの碧い瞳の奥がきらりと光っている。
「あ…、これはリヴァイ兵長にお渡しする書類です」
「そうかい。見せてもらってもかまわないかな?」
「もちろんです」
即答して書類を手渡したが、マヤは居心地が悪くなってきた。団長の瞳が数枚の書類に目を通していけばいくほど愉快そうに輝いてくるからだ。
「……君も色々と大変だな」
そうつぶやきながら書類を返却してきたエルヴィンの言葉の真意がわからず戸惑う。
「その書類だと下手をすれば、リヴァイの機嫌が悪くならないとも限らない」
「……えっ。それはやっぱりこの書類が…、その…」
ミケ分隊長もはっきりと断言した “会うための口実” となる書類。それをエルヴィン団長にまで見透かされてしまい、恥ずかしい。
顔を赤くしてうつむいていると、思いがけないほどの優しい声が降りそそいだ。
「リヴァイのところに行くなら、この書類も一緒に届けてくれないかな?」
顔を上げれば、優しさをたたえた碧い瞳が見守るようにこちらの琥珀色の瞳を覗きこむ。それはまるで思わず吸いこまれそうになる澄んだ碧さ。
「……わかりました」
「すまないね…。では、よろしく頼むよ」
そう言ったきりエルヴィンは、マヤが入室してきたときに書き記していた書類に目を落とし、万年筆を掴む。退出しろとの無言の圧にマヤは速やかに扉へ向かう。
最後に振り返り “失礼します” と声をかけてから一礼し扉を閉めた。団長室にはさらさらと万年筆を走らせる音だけが残った。
……リヴァイと… マヤ… か。
碧い瞳は意味深長な輝きを放っていた。