第19章 復帰
黙ってミケは数枚の書類を手に取ると、二つに分けた。
「重要な仕事…、それはこの書類をエルヴィンに」
分けた書類の片方を差し出す。
「はい…」
マヤが書類を受け取ると、もう片方の書類を意味ありげにゆっくりと手渡した。
「こちらはリヴァイに…」
「………」
「憶えているだろう? 執務の補佐に復帰したらリヴァイに礼を言うのは “業務” だ」
「はい…」
渡された書類を見れば、エルヴィン団長に渡す方は確かに本日中に渡すべきものだ。だがリヴァイ兵長への書類は、全く急ぎではない… どころか提出する必要のないたぐいのものだった。
……なんだか書類を会いに行くきっかけに利用しているみたいで恥ずかしい…。
そう思ってマヤが困った様子をしているのに気づいたミケは。
「どうした?」
「あの… 分隊長。団長の方はともかく兵長の方の書類は取ってつけたようで…、渡しにくいです…」
「ははは」
なんだ、そんなことかといった様子でミケは笑った。
「そんなの気にしなくていい。実際、その書類はお前がリヴァイの部屋に行くための口実でしかないんだから」
笑うミケをマヤは軽く睨んだ。
「私の方は兵長の部屋に行く理由があるのでそれでいいんですけど、兵長は違います。お忙しいのに迷惑になるのではないかと…」
「いいや、リヴァイにとってもちょうど良い口実になるから、その点は心配無用だ」
「………?」
……兵長にとっての私に会う理由?
私は今回の壁外調査でのことを、きちんとお礼を言いたいから会いたいけれども。
兵長が何故?
……あっ そうか。助けた部下がその後どうなったかは知りたいものよね…?
「……わかりました。では、行ってきます」
小難しい顔をしながら執務室を出ていくマヤの背中を見送りながら、ミケは内心でやれやれとため息をついた。
……鈍感なやつだな。どんなにあのときリヴァイが、お前に必死だったか… 全然わかっていないんだな…。