第18章 お見舞い
昼食を美味しくいただいて、残すはデザートのりんごだけになった。
……でも、よく考えたらお昼に果物が出ることなんてあったかしら?
調査兵団は万年資金不足であり食糧不足だ。よって日々の食事も憲兵団や駐屯兵団に比べて、圧倒的に質素である。
果物が食事に添えられることはほとんどない。年始めや年忘れなどの季節の節目だったり、壁外調査の前日だったり。稀に何も理由が思い当たらない日に果物が出ることがあるにはあるが、すべて夕食に限られていた。
……なんでお昼なのに、りんごが…?
そしてこの可愛らしい、うさぎの飾り切り。
今までに食事とともに出されたりんごには、飾り切りはされていなかった。
「マヤが早く元気になりますようにって、うさぎさんが思ってるから遊びにきたのよ」
母の言葉がよみがえってくる。
……あっ、もしかして。
ジムさんがあのときの母のように、私に元気になれと思ってくれた…?
もしそうならば、その気持ちはとても嬉しい。
「……ありがとうございます。いただきます」
あらためて両手を合わせたマヤは、ぴんと背すじを伸ばしてりんごにフォークを伸ばした。
しゃりしゃりしゃり。
……美味しい。
きっとジムさんが、わざわざうさぎさんに飾り切りしてくれたりんご。
そして…。
生きてまた、この食堂で食べていること。
マヤは急速に胸がいっぱいになってきた。
すべてに感謝して前へ進んでいきたい。
りんごを食べ終え両手を合わせる。心をこめて “ごちそうさまでした” と。
食器を乗せたトレイを持って、厨房へ。
そこではジムが一心不乱にパンの生地をこねていた。
調査兵団の食堂で毎日出されているパンは、料理人が毎日焼いている。三食分にあたる大量のパンを、午後に大型のオーブンで焼くのだ。したがって夕食のパンは焼き立てであり、翌日の朝と昼は前日に焼かれたものとなる。パン作りは結構な力仕事であり、四人いる料理人のうち唯一の男性であるジムが担当する場合が多い。