第18章 お見舞い
二人の間に流れた数秒ほどの気まずい沈黙。
くるりと背を向けて立ち去ろうとしたジムの気配に我に返り、マヤは声をかけた。
「あの…、ご心配をおかけしたそうで…。すみませんでした…」
立ち止まった背中がやけに大きく見える。
「……別に」
冷たく言い放つと、ジムはそのまま厨房に消えた。
………。
カウンターの前にひとり取り残されたマヤの頭の中は、ジムの残した “別に” がリフレインしている。
……ジムさんが私を好き?
いやいや、ありえない。
すべてマーゴさんの妄想なのでは!?
そう結論づけると、納得がいく。すっきりする。
マヤは軽くうなずくと、カウンターの上に置かれたトレイを持って窓際の席へ。
「いただきます」
いつもどおりに両手をきちんと合わせる。
昼食のメニューは豆と人参の炒め物にとうもろこしのスープ、そしてパンだ。
いつもと変わらないよく出てくるパターンのお昼ごはん。
……あれ?
よく見ると豆と人参の炒め物の皿に、何か異質のものが乗っている。
……うさぎさんだ!
それは皮をうさぎの耳の形に切ったりんごだった。
「可愛い!」
それがうさぎだと気づいた途端に思わず声が出る。
もぐもぐと豆と人参の炒め物やパンを食べながら、思い出す。
……りんごのうさぎさん、子供のころに熱を出して寝こんだときに、お母さんが食べさせてくれたっけ。
懐かしいなぁ。しゃりしゃりと美味しくて、お母さんが優しくて。
「どうして、うさぎさんなの?」
「マヤが早く元気になりますようにって、うさぎさんが思ってるから遊びにきたのよ」
そう言って笑った母の顔が好きだった。
マヤは子供のころの思い出にひたって幸せな気持ちになった。