第18章 お見舞い
「やだよ! 前に話したの、もう忘れたのかい? まさか頭を打ったから記憶喪失になってるんじゃないだろうね!?」
「いえ、そんなことはないんですけど…」
「うちのジムだよ!」
……やっぱり。
どう返事をしていいかわからず曖昧な笑みを浮かべていると、マーゴがまくし立ててきた。
「ジムはね、すぐにマヤが食べに来ていないことに気づいてね。あたしに訊くのさ、“あいつ、見ないな。知らないか?” ってね! あたしだって甥っ子がぼそぼそつぶやいてるのにつきあってるほど暇じゃないんだよ。大体 “あいつ” って誰だって話だよ。だから言ってやったんだ、“ジム、あいつって誰のことだい? 調査兵団の兵士が何人いると思ってんだい? あいつじゃ誰のことかさっぱりわかんないね!” とね!」
マーゴの怒涛の勢いに圧倒されて何も言えない。
「そうしたらあの浅黒い顔をどす赤くしてさ、なんでもないってそれっきりその話題は打ち切りさ。でもどうしても気にかかるみたいで、食堂の扉がひらくたんびにチラチラチラチラ見ちゃってさ、情けないったらありゃしない。それでとうとう昨日の夜に我慢ができなくなったみたいで、ペトラに突進した訳さ。するとすっとペトラの前にオルオが立ちはだかったんだよ!」
「オルオが?」
「そうなんだよ! ほらジムが怖い顔して首ったけのペトラに突っこんでいったからだろうね。なかなかの紳士じゃないか」
……ふふ、オルオったらやるじゃない!
マヤは嬉しくなった。
「……それからどうなったんですか?」
「ジムはペトラに訊こうと思ったんだろうに、突然目の前に現れたオルオにキレてね、胸ぐらを掴んで “おい! あいつは…、マヤはどうしてるんだ!” って怒鳴ってたよ。オルオが “巨人に襲われて昏睡状態におちいったけど目覚めた。今は医務室で安静にしている” といったようなことを言ったら、それはもう巨人とか昏睡状態とかの言葉に驚いたんだろうね! ぐわんぐわんとオルオを揺さぶるもんだから、最後にはオルオが舌を噛んで白目をむいてたよ」
…………。
それを聞いてマヤは考えこんでしまった。