第18章 お見舞い
食堂には、やはり誰もいなかった。
ピークの時間にはカウンターに次から次へと食事の乗ったトレイがならべられ、それを取って席につくのだが、今のように時間がずれると厨房にいる料理人に声をかけなければならない。
「すみません」
マヤがじゃーじゃーと水の流れる音がしている厨房に呼びかけると、ぴたっと音がやんだ。
「……マヤ!」
前かけで両手を拭きながら出てきたマーゴが目を輝かす。
「もう起きて大丈夫なのかい?」
「え? ……あっ、はい」
……マーゴさんも知ってるんだ…。
マヤは内心そう思いながら、にっこりと笑ってみせた。
「このとおり元気です」
「そうかい! 巨人に襲われたって聞いたときにはひっくり返りそうになったよ。それで、命はとりとめたけど昏睡状態だったって言うだろ? もう心配で心配で!」
「あはは…。ご心配をおかけしてすみません…。あの… それ、誰から聞いたんですか?」
急にマーゴはにやにやと、意味ありげに笑い始めた。
「いや実を言うとね、あたしは壁外調査が終わってからマヤが食堂に来ないことに全然気づかなかったのさ。悪く思わないでよ! 兵士はものすごい人数いるんだからね。注意していないと気づかないよ」
「そうでしょうね、当然だと思います」
「だろ? だけどね、マヤが姿を現さないことにいち早く気づいたヤツがいるんだよ!」
マーゴのにやけ顔が加速していく。
「誰だかわかるかい?」
「……いえ」
実はマーゴの表情から誰のことを言っているのか薄々気づいていたマヤだったが、なんとなく自分からその名を出すのは気が引ける。