第18章 お見舞い
厩舎から自室に帰ってくると時刻は13時を過ぎていた。午後の訓練の第一部の開始時刻が13時なので基本的に食堂には誰もいないはずだ。
あえて時間を外した訳ではないけれど、心のどこかで人目を避けたい気持ちがあったのかもしれない。
いくら分隊長の許可があるとはいえ、今日の訓練には出ず皆が汗を流している時間に一人で風呂を満喫したこと。馬と戯れたこと。そして…。
リヴァイ兵長にお姫様抱っこされたことを知られている。
次の日の朝のお姫様抱っこでは、新兵の女の子たちがざわついていたらしいし…。
もし食堂にその子たちがいたら、妙な目で見られそうで。
もちろん永遠に逃げつづけることはできないけれど、復帰初日くらいは人目を気にせずにゆっくりとしたかった。
明日からは兵長を好きな人たちに変な目で見られたって、堂々としてみせる。
……だって兵長は具合の悪い部下を運んだだけなんだもん。
それ以上の意味なんかないんだし。お姫様抱っこをされている自分を想像したら恥ずかしくなるのは、私側の問題であって…。気持ちの…。
それは間違いのないこと。
現にペトラもオルオも、あっけらかんとなんの意味もない単なる “部下思いの表れ” と言っていたもの。
意識してしまっている私がおかしいんだ。
「……ね? そうよね?」
ラドクリフ分隊長にもらったガーベラの花を相手につぶやいてみる。
花瓶がなかったので少し大きめのマグカップにいけた明るい黄色の花は、当然ながら何もしゃべりはしない。
だが “希望” と “常に前進” という前向きな花言葉のガーベラは、静かに自身の気持ちを後押ししてくれるようにマヤには思えた。