第18章 お見舞い
「そうじゃな、そうじゃな! 確かに十五の春から馬一筋苦節五十年、馬のことなら誰にも負けんわい!」
えっへんと胸を張るヘングストは、もうすっかり元気いっぱいのようだ。そんな彼を可愛く思い、マヤは思わず微笑んだ。
「ふふ」
「マヤのおかげで何やら元気が出てきたわい。お前が死なずにこうやってわしの前にいてくれて、こんな嬉しいことはない。本当に無事で良かったのぅ」
「はい、ありがとうございます。私もヘングストさんに、サムさん、フィルさん… そして馬たちに会えて幸せです」
「マヤは本当に馬が好きじゃからな」
目を細めるヘングストに笑顔で返事をする。
「ええ、大好きです」
ブルブルとマヤの背後でアルテミスが鼻を鳴らした。
「アルテミスもマヤが好きじゃと言うておるわい」
「ありがとう、アルテミス」
マヤが愛馬の頬にそっと手をふれて気持ちを伝えたそのとき。
「親方ー!」
サムのヘングストを呼ぶ声が厩舎に響く。
「わしはもう行くが… マヤ、元気そうで安心したわい」
「ありがとうございます」
「ではまたな」
そう言って遠ざかるヘングストの背中をしばらく見送ったあとに、マヤはアルテミスへのマッサージを開始した。
まずは鼻すじをかいてやる。次に耳をふにふにと揉むとアルテミスは、フンフンと言いながら頭を下げて目を閉じた。少し手を止めると、もっともっととねだるように頭を押しつけてくる。
「気持ちいいね~、アルテミス」
気持ち良さそうにしている愛馬の様子に心から嬉しくなる。
耳のマッサージを少し長めにしたあとは、首すじに背すじ、腹から尻まで丁寧に撫でてやったり、ツボを押してやったりした。
「今度はちゃんとブラシをかけてあげるからね」
ブヒヒヒン、ブルッブルッ。ブブブブ。
とろんとした目をしてリラックスしているアルテミスの甘えた声を聞きながら、マヤは馬房を出た。
「もう行くね…。またね、アルテミス」
ブヒヒヒンとまるで挨拶を返したかのように鳴く愛馬に手を振って、マヤは厩舎を出ていった。